東京地方裁判所 昭和43年(ワ)6073号 判決
原告
鴨川明利
原告
鴨川醤油工業株式会社
右両名代理人
江口保夫
外四名
被告
前田睦雄
被告
上栄商事株式会社
被告
服部正雄
被告
前田孝喜
被告
日本農産工業株式会社
右五名代理人
森川静雄
外一名
第一 主文
一、被告前田睦雄、同前田孝喜、同上栄商事株式会社、同日本農産工業株式会社は、それぞれ、
(一) 原告鴨川明利に対し金三、九三〇、三〇五円および内金三、三三〇、三〇五円に対する昭和四四年四月一五日から完済にいたるまで年五分の割合による金員、
(二) 原告鴨川醤油工業株式会社に対し金一七〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年六月一六日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の各支払をせよ。
二、原告鴨川明利の右一項の各被告らに対するその余の請求ならびに原告両名の被告服部に対する全請求を棄却する。
三、訴訟費用は、原告両名の被告服部に対する請求については各原告の負担、原告会社の右一項の各被告らに対する請求についてはその各被告らの負担とし、原告明利の右一項の各被告らに対する請求については三分し、その一をその各被告らの負担とし、その余を原告明利の負担とする。
四、この判決一項は仮に執行することができる。
第二 本訴申立
「一、被告らは各自原告鴨川明利に対し、金一二、六二五、一七四円および弁護士費用をのぞいた内金一一、一三〇、一七四円に対する本訴請求後である昭和四四年四月一五日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、被告らは各自原告鴨川醤油工業株式会社に対し金一七〇、〇〇〇円およびこれに対する本訴請求後である昭和四三年六月一六日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。(不真正連帯債務)
第三 争いのない事実
一、傷害、物損、追突自動車事故発生
とき 昭和四二年七月二二日午前一〇時二六分頃
ところ 東京都世田谷区代田三―二五先環状七号線通りの宮前橋交差点
事故車 被告前田孝喜保有の七トン半積み自家用貨物自動車ヒノ・デーゼル、長一せ八五八六号
右運転車 被告前田睦雄
受損車 原告会社所有の軽自動車、六品川け、五八八二号
受傷者 原告鴨川明利(右受損車運転中)
態様 受損車が本件交差点で停止信号のため停止中、後方からきた事故車が追突した。
二、責任原因について
1 被告前田孝喜は本件事故車を月賦販売契約により買受けた保有者であり、被告前田睦雄はその従弟である。
2 被告上栄商事は飼料の売買を目的として設立された資本金三〇〇万円、従業員数名の小会社である。
そしてその資本金の八割二四〇万円は、同じく飼料および畜産製品の製造販売を目的とする被告日本農産が出資しており、またその代表取締役には、被告日本農産の取締役でもある被告服部が当つている。
3 本件事故車には被告日本農産のマークである「((栄))飼料」の表示があつた。
三、損害の填補
原告鴨川明利は強制保険金五〇万円の給付を受けて本件事故による損害に填補した。
第四 争点
一、原告らの主張
(一) 責任原因
1 被告前田睦雄の不法行為責任
運転上の過失により本件事故を発生させたから民法七〇九条により賠償責任を有する。
2 被告前田孝喜の運行供用者ならびに使用者責任
従つて前田孝喜は人損につき自賠法三条により、物損につき、被用者睦雄がその業務として飼料運搬中の本件事故につき民法七一五条により、それぞれ賠償責任を有する。
3 被告上栄商事の運行供用者ならびに使用者責任
被告上栄商事は昭和四一年一一月頃から被告孝喜から同人所有の本件事故車を運転手である被告睦雄とともにいわゆる丸抱えとして雇入れ、その飼料輸送業務に専属的に従事させていたものである。従つて本件事故車の運行につき支配と利益を有していたものであるから人損につき自賠法三条、物損につき民法七一五条により、賠償責任を有する。
4 被告日本農産の運行供用者ならびに使用者責任
第三の二の2、3の事実からしてもうかがわれるように被告上栄商事は被告日本農産の指示のもとに同社製品飼料の運搬販売に専従する子会社で別個の法人格ではあるが、その輸送販売部門の一部を担当する実質上同一の会社組織に属するというべきである。従つて被告日本農産は本件事故車の運行に関し支配と利益を有していたものであり、またその業務執行中の事故というであるから、自賠法三条、民法七一五条により本件事故による損害につき賠償責任を有する。
5 被告服部の代理監督者責任
被告服部は被告上栄商事の代表取締役として事実上同社の業務執行である飼料の輸送に対し同社に代つて指揮監督の実をつくしていたから、本件事故につき民法七一五条二項の責任を負わねばならない。
(二) 損害
A 原告明利の損害
1 傷害の内容
脳挫創、顔面挫創、左下腿挫創、右大腿骨々折、
2 損害の数額
(1) 医療費
イ 応急手当費 金一〇、五〇〇円
ロ 国立第二病院 金九一五、五八五円
昭和四二年七月二二日から同四三年四月一六日までおよび同年八月八日から八月二〇日までの入院治療費ならびに歯科関係治療費
ハ 国立塩原温泉病院金四一、九三二円
昭和四三年四月八日から同年七月二三日までの入院治療費
ニ 塩原入院中の東京での治療費
金 四、四三八円
ホ 看護料 金六八、二五〇円
昭和四二年七月二二日から八月二二日までおよび同年一〇月二七日から一一月二日までの計三九日、一日一、七五〇円の割合
ヘ 交通費 金一二、六〇〇円
塩原入院中慶応病院、国立東京第二病院に診療を受けるため九回往復したが、片道に上野―西那須野間急行料とも七七〇円、西那須野―塩原温泉病院前間バス一三〇円、計九〇〇円を要した。
ト 栄養費、諸雑費 金七八、〇五三円
栄養補給費、新聞代、松葉杖、毛布カバー、血液供給者、医師、看護婦に対する謝礼などの総計である。
(2) 将来の医療費
金二二五、〇〇〇円
顔面整形のための手術費、半月入院を要する。
(3) 休業補償費
金一、一〇〇、〇〇〇円
原告明利は事故当時は原告会社に勤務し、月額五万円の給与を得ていたが、事故により昭和四二年八月から四四年五月まで二二月間右給与の支給を受けることができなかつた。
(4) 後遺症による将来の逸失利益 金六、三一八、八一六円
原告明利は昭和三六年東京農業大学醸造学科を卒業し、以来その専門的知識により定量分析を行なつてきたが、本件事故により嗅覚が著しく減退し、眼の機能が低下して、ミリメートルという細かい仕事を要する分析、鑑定は全く不可能となり、他の職種に従事するとしても、運動域屈曲八〇度、伸展一七五度の右膝関節に後遺症として残つた機能障害のため労働能力の五六%を失つたものとみられる。
昭和四四年六月から向後六〇才(昭和七六年)までは就労可能であつた筈であるから、事故時の収益額を標準として右三二年間の逸失利益の現価の総計を年五分の割合による中間利息控除のホフマン式計算によつて算出すると右金額とする。
50,000×0.56×12×18.806
=6.318.816
(5) 慰藉料
金三、二五〇、〇〇〇円
事故時二七才の健康な男子であつたところ本件事故により瀕死の重傷を負い、国立東京第二病院に九ケ月もの入院、さらに引続いて塩原温泉病院での加療を余儀なくされた。また前述の後遺障害等級七級の右膝関節の機能障害のほか、眼瞼瘢痕を残しこれもまた後遺障害等級一二級ないし一四級に当該する。
右各事情を考慮すると原告の精神的苦痛は甚大で、これを慰藉すべく、右金額が相当である。
(6) 弁護士費用
金一、一〇〇、〇〇〇円
原告は本件提訴を余儀なくされ、着手金八万円を支払つたほか、第一審判決時に報酬として一、〇二〇、〇〇〇円を支払う債務を負担し、計右金額の損害を蒙つた。
(7) 未済残額
金一二、六二五、一七四円
右(1)ないし(7)の損害合計額金一三、一二五、一七四円から受領した強制保険金五〇〇、〇〇〇円を差引くと被告らが不真正連帯の関係で支払うべき金額は右のとおりとなる。
B 原告会社の損害
金一七〇、〇〇〇円
本件事故車は昭和四一年、訴外ませぎ自動車株式会社から金三〇万円で購入したものであるが、本件事故により全損し、廃車のやむなきにいたつた。ところで事故当時の時価は少くとも金一七万円を下らない。
二、被告らの主張
原告らの主張はすべて否認する。被告前田孝喜は前田商会と称し、砂利の販売を業とし砂利を東京に運搬した帰りの空車を利用して被告上栄商事との間に飼料を運ぶ契約を結んだもので、両者の間に専属関係はない。被告上栄商事は被告孝喜に運搬のコースを指示するなど本件事故車の運行について具体的に指揮監督することはなかつたし、飼料一トン当り一、二〇〇円の運賃を支払うのみで毎月一定額の仕事ないし収入を保障するということもなかつた。従つて一般的な荷主と運送業者の対等の契約当事者の関係にすぎない。
被告上栄商事は、被告日本農産の長野県上田方面地区の特約店ではあるが、別個の法人格であつ、被告上栄商事の業務は訴外荻原通永が主宰していた。被告日本農産は従つて直接間接を問わず、本件事故車を指揮監督する立場にはなかつた。
なお、また被告服部は被告上栄商事設立以来、右所在地には二回訪れただけであり、日常の業務はすべて任せきりで飼料の輸送などについては具体的に全く関知していなかつたのである。
第五 争点に対する判断
一、責任原因
(一) 被告前田睦雄の不法行為責任
本件事故について被告は積載重量制限をおかし、ブレーキなどの点検操作も十分でなかつた過失が認められ、民法七〇九条による賠償責任をまぬがれない。
(資料(略))
(二) 被告前田孝喜の運行供用者、使用者責任
本件事故車の保有者として、特にその運行支配排除の主張立証もなく、また、被告睦雄を運転手としてやとい、事故時にも同乗してその指揮下においていたから自賠法三条、民法七一五条一項の責任をまぬがれない。
(資料(略))
(二) 被告上栄商事、被告日本農産の各運行供用者、使用者責任
先ず少くとも左の事実が認められる。
(イ) 被告上栄商事は被告日本農産が資本金の大部分を出資し、その上田地区特約販売店として昭和四一年八月二七日頃設立されたもので、その店舗約六〇坪、敷地約三〇〇坪とも被告日本農産の所有に属し、その営業は殆んど被告日本農産の製品の販売で占められ、別個の法人格ではあるがいわば被告日本農産の営業部門の一単位としての活動に専従終始している。なお被告日本農産は資本金二五億四千万円の上場会社である。
そして事故当時の被告上栄商事の従業員としては取締役として業務全般を主宰する荻原通永、配達担当の前田直喜事務補助の長谷川清子の三名にすぎず、代表取締役である被告服部は二回ほど被告上栄商事の事務所を訪れたことはあるが具体的な指揮監督はしていない。
(ロ) 被告上栄商事はその扱い商品である被告日本農産の製品をその所在地横浜からひきとるについてすべてトラック輸送にたより、昭和四二年二月頃からは前記前田直喜の弟である被告前田孝喜に(同被告同乗、被告睦雄運転)その輸送のすべてを委ねていた。
そして被告孝喜の所有するトラックは本件事故車一台であり、運送事業の免許を受けない、所謂白ナンバーで、被告上栄商事もこれを知つており、しかも車体には、被告日本農産のマークである「((栄))飼料」の表示がされていた。
また右輸送の実際は被告上栄商事からの依頼があれば被告孝喜の車は必ず横浜に向い、その輸送の品目、重量はすべて、被告日本農産の指図に従つて行われ殆んど積載重量の超過が常であつたが、特にこれに異をたてることもなく、従つて被告孝喜が直接被告上栄商事もしくは被告日本農産との間で運送に関し取りきめるなり、取り仕切ることは全くなく、輸送の対価も専ら被告上栄商事方の計算のままにおおよそ月毎にまとめて支払われていた。
なお被告孝喜は右輸送の往復には被告上栄商事の関係しない砂利運搬、野菜の運搬も行つていたが独立の輸送業務というよりは、殆んど被告上栄商事の依頼業務の往路を活用する域を出るものではなかつたし、被告上栄商事の依頼による輸送業務は月に七、八回ないし一〇回程度ではあつたが、上田、横浜間の往復であり、一回につき深夜をふくんだ二日がかりの作業であつて、本件事故車の稼働としてはその依存度は五〇%をはるかにこえるものとみられる。
被告孝喜は事故当時二四才の若年で、無資力であり昭和四一年にさかのぼる本件事故車の購入も親戚からの資金融通にたよるものであつたし本件事故後は大工として稼働している。
(ハ) 本件事故は右のような被告上栄商事の依頼による横浜から上田に向つて被告日本農産の製品を運送中の途次おきたものである。
(資料(略))
右各事実を総合すると、被告前田孝喜は被告日本農産の実質的な上田地区の販売部門である子会社被告上栄商事の飼料製品運送業務の下請として、両被告会社の具体的な指揮監督のもとでその限りにおいては専属優先的に本件事故車の運行により運転手被告睦雄を雇用して輸送に従事していたものといえる。従つてまた被告日本農産、被告上栄商事はいわゆる親子会社としてその間の支配従属関係を介して重畳し、また各自競合して、被告孝喜のそれに重ねて本件事故車による運行を支配し、また丸がかえの形態をとおして被告睦雄の業務執行に関し使用者の地位を有するものというべく、従つて本件事故に関し自賠法三条、民法七一五条一項の責任をまぬがれない。
(四) 被告服部の代理監督者責任は認められない。
被告服部は被告上栄商事の代表取締役であるが本件事故車の運行についてはいうまでもなく、被告上栄商事の業務全般について具体的な指揮監督をしていた事実はなく、その役員報酬の支給も受けておらず、いわば親会社である被告日本農産からの出向としての代表名義にとどまり被告上栄商事の業務に関しては親会社の役員、営業部長として報告を受け被告日本農産および他の子会社をふくむ業務全般の一般的抽象的指示、視察をする程度の関与にすぎない。なおまた被告上栄商事、被告日本農産の実質的な主宰者といつた出資、利益享受の事実も全く認められない。従つて代理監督者としての民法七一五条二項の責任を肯るによしない。
(資料(略))
二、原告らの損害発生
(二) 原告明利の損害
1 傷害の内容
原告主張のとおり認められる。
(資料(略))
2 損害の数額
原告主張のうち左の限度で認定できる。
(1) 医療費
計一、一三〇、三〇五円
原告主張(第四の一の(二)のAの2の(1))のうちイないしヘについては主張のとおり、トについては実支出額のうち入院期間前後合計三八五日間一日につき二〇〇円の割合での入院雑費七七、〇〇〇円
(2) 将来の顔面整形の手術費
金一〇〇、〇〇〇円
右の限度で認められる。
(3) 休業補償費
金一、一〇〇、〇〇〇円
原告主張のとおり認められる。
(4) 後遺症による逸失利益は認められない。
現在原告には、右膝関節の運動域屈曲八〇度伸展一七五度に限られた身体障害者障害程度等級表七級(原告主張は甲第三二号証の記載が右等級によつているのを自賠法施行令別表の後遺障害等級と誤解していると思われる)に当る軽度の右下肢関節の障害があるが、今後の改善も見込まれ、また原告本人は本件受傷による嗅覚、視力の減退を訴えているけれども、労働能力による支障を来すような具体的な内容の医師の診断の結果はみられない。その他前歯の切損、眼瞼(自賠法施行令別表障害等級一二ないし一四級に該当)に軽度の瘢痕を残しているが、これらの障害の結果をあわせ検討してみても、昭和三六年東京農業大学醸造学科を卒業して原告父子の同族会社である原告会社に勤務し、今後ともその業務従事を継続してゆくつもりである原告にとつて後遺障害によつて将来にわたる収益の喪失をもたらすような損害の発生は本件立証の限度では認めがたいところである。
(5) 慰藉料
金一、五〇〇、〇〇〇円
受傷の程度昭和四二年七月二二日から翌年四月六日までの国立東京第二病院、同年四月一一日から七月二二日まで国立塩原温泉病院、同年八月八日から八月二〇日までの国立東京第二病院の前後三八五日間にわたる入院、治療の経過、すでに前示認定した各後遺障害を総合するとき、本件受傷による原告の苦痛を慰藉すべく右金額が相当である。
(資料(略))
(6) 弁護士費用
金六〇〇、〇〇〇円
ところで右(1)ないし(5)合計金三、八三〇、三〇五円にわたる原告明利の損害のうちすでに強制保険金五〇万円による填補分を差引いた残額三、三三〇、三〇五円につき、被告らはその責任原因を争い、賠償を拒んで原告は本件提訴をやむなくされた。従つて未済金額、責任原因の追及に問題点のある事案の性質からみて弁護士報酬契約の範囲内で金六〇〇、〇〇〇円を本件事故による損害として前示責任の認められる被告らに負担させてよい。そうすると原告のなお支払を受くべき損害額は金三、九三〇、三〇五円となる。
(二) 原告会社の損害
金一七〇、〇〇〇円
原告主張のとおり認められる。
(資料(略))
三、結び
そうすると原告らの本訴請求は主文の限度での損害金と遅延損害金の支払を被告服部をのぞいた各被告に対し不真正連帯の関係で求める部分につき理由があり、その余の原告らの請求は棄却すべきである。
訴訟費用につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言に関し同第一九六条を適用した。(舟本信光)